25歳でフランスはニースで独立、3年目に外国人として最年少でミシュランの一つ星を獲得。その後10年間維持しつづけてきたシェフ、松嶋啓介さん。
現在はニースに3店、東京・神宮前に1店を構える傍ら、食を通して様々なジャンルで活躍している松嶋啓介さんに、同店で提供する「塩なしメニュー」や「食」についてお話を伺った。
塩分過多な和食、常習性のあるマイルドドラッグ「塩」
フランスと日本の行き来する松嶋さんに日本や和食について印象を伺うと、「がんが多いですね。WHOからも不健康だと指摘を受けている」と一言。
和食はヘルシーな長寿食だと一般的には認知されているが、実は逆だ。
WHO(世界保健機関)が定める1日の塩分摂取目標量は、1日5g未満であるのに対し、日本人の1日の塩分平均摂取量は男性で10.8g、女性で9.1gと大幅に基準を超えている。
塩分過多は、高血圧や腎臓疾患、不整脈や心疾患など重大な疾患リスクを引き起こす引き金になる。
さらに、塩分には麻薬中毒患者にも似た常習性があり、不足するとイライラするなどの禁断症状があらわれ「マイルドドラッグ」とも呼ばれている。砂糖や脂、化学調味料や炭酸飲料などもこれにあたるという。
刺激的な「おいしさ」ではなく、満足感を高めるうま味を
摂取すると脳に快楽や枯渇感を与える塩をはじめとしたマイルドドラッグ。この刺激を人は「おいしい」と表現するのだと松嶋さんは言う。「だから、料理はおいしくなくていい」と。
神宮前「KEISUKE MATSUSHIMA」では、塩を使わずハーブとスパイスのみで調理した「セルフリー」というコースを提供している。
「肉や魚などの素材そのものにも塩分が入っている。余計なものを加えず、その素材本来の味とうま味を逃さないようにすればいいだけ。」
例えばメインの肉料理「シストロン産仔羊のロースト インゲン豆とセップ茸 サバイヨン ニンニク風味のジュ」は、仔羊が汗をかかず、本来仔羊に含まれてる塩分が外に出ないよう低温調理をしている。
「鯛のローストとヴァプール “ガリッグの思い出” ニース風ラタトゥイユ ピストゥーソース 」も、石を用いて鯛に間接的な熱を加えることで、素材から味が逃げないようにしている。また、炭酸水の蒸気の中にもナトリウムが入っている。素材のうま味を十分味わうための調理法だ。
うま味は食事の満足感を高め、食欲を抑えられることが証明されている。
KEISUKE MATSUSHIMAのセルフリーの料理の味はどれもやさしく、じっくりと味わい、誰かと共有したくなる。
自然の恵みや命を美味しくいただくということ、そして食事を通して大切な人との関係を育む「食べる”コト(体験)”」であると感じさせてくれる料理だ。
男が作る料理は、人生と家庭を変える
KEISUKE MATSUSHIMAでは、定期的に季節や旬のテーマに沿った料理教室を開催している。参加者はさまざまだが、経営者など男性も多い。
「男が家で料理すると、がらっと立ち位置がかわるんだよ」とにやりと笑う松嶋さん。
思えば筆者の父も、お正月には鶏を捌き蕎麦を打ったあと家族総出で餅つきをするのが恒例で、お正月だからという理由とは別に、特別で思い出深いものだった。
慌ただしい日常生活を送る男性が、家族に手料理を振る舞うーときには子供と一緒にーこのことは、食材の調達から調理過程、味わう時間を会話とともに過ごし、今までとは違う父としての立場を取り戻すということなのだろう。
手料理を介してコミュニケーションと愛情を育むこと、それが「食事」なのだ。
受講者の奥様からは「(主人が家で子供と料理を作ってくれて)結婚したときよりも嬉しかった」とメッセージをいただくこともあるそうだ。
なにものにも変えがたいギフトは日常にあり、自分の手で作り出せるのだと気付かされるエピソードだ。
料理をすることは生きること
料理が作り手の人生を変え、家族のあり方にも大きな影響を与える。
「優しくなれる味、リセットするための味がある。本来はこれが当たり前なんですよ」と微笑む松嶋さんメッセンジャーには、手料理を通して人生が変わった人々の喜びの声が並ぶ。
食事は生きていくのに必要だが、身体を構成する栄養素としてだけでなく、
心と人生、家族や愛する人々との関係を育むことが食事なのだと、改めて認識する時なのではないだろうか。
店舗情報
KEISUKE MATSUSHIMA
東京都渋谷区神宮前1-4-20
パークコート神宮前1F KEISUKE MATSUSHIMA
ご予約専用電話:03-5772-2091
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